皮のなめし
 人類が地球上に生存し始めたときから、動物皮を防寒用、居住用テント、その他の生活用品として利用していたことは明らかである。紀元前の壁画の一つとして、エジプト・テーベンの古墳中で発見された壁画は製革技術がかなり普及していたことを物語っている。また、動物皮の繊維を噛み砕いて柔軟にしている写真もよく紹介されています。さらに、わらや雑木等の煙で皮を燻したりして腐敗しないようにして皮のなめしが始まった。
 日本でも古来から伝わるなめし方法に、なたね油を用いてなめす“白なめし革”や脳しょうなめし革などがある。
 鞣製とは動物皮のコラーゲン線維を精錬純化して、この線維を鞣剤によって処理し定着固定する。必要に応じて、染色・加脂を施し、柔軟にする作業を総称している。さらに耐久性やファッション性を付加するため、革の表面に塗装仕上げ等を行う。これらの工程を施すものを製革工程といっている。
 鞣しの種類として、古くは剥皮した動物皮を乾燥し、叩いたり、擦ったり、揉んだりして線維を解して、いわゆる物理的処理によって行われた。その後、煙で燻したり、動植物の油を塗ったり、植物の浸出液に漬け込んだりして効果的に柔らかくし線維を柔軟にしていた。  
 近年は、一般的にクロム鞣しが最も多く普及しており、植物タンニン鞣しやホルムアルデヒド鞣し、その他の鞣し方法があるが、最も多く使用されているクロム鞣しと植物タンニン鞣しの概要を紹介する。
 
  エジプトの古代の鞣製技術(テーベン壁画) 澤山 智「鞣製学」より引用
   
 
  エスキモーと鞣製(澤山 智「鞣製学」より引用)
 
国立民族学博物館発行(昭和55年)「民族学」ヘアーインデアンの皮なめしより引用

図4のように皮を吊るして、その下からエゾマツを燻して皮を染め上げると説明してある。

なめしとは、浸す、絞る、引っ張る、いぶす・・がなめしの工程である。
   

 
なめしの定義
 鞣されていないものを「皮」(かわ)といい、鞣しが行われたものを「革」(かく)という。毛皮のように鞣しが行われていても、「皮」を使う場合もある。鞣しの定義として、次の 3つの要素が挙げられている
   
  1) 耐熱性の付与
     動物皮の耐熱性は、動物の種類によって異なる。通常、哺乳動物の耐熱性(熱収縮温度)は62~63℃前後である。鞣しによって皮の耐熱性を向上させる。下表に皮・革の耐熱性を示す。
  生皮の場合は皮中のオキシプロリン含有量と耐熱性が関係しているといわれているが、鞣しを行うことによって革の耐熱性が上昇する。この耐熱性は鞣しの方法によって異なる。
  皮および革の耐熱性
 
皮および革の種類 熱収縮温度(℃) オキシプロリン含有量(%)
牛皮 65 12.5~13.4
鯉の浮袋 57 11.6
メバルの皮 33〜34 7.0
牛・クロム鞣し革 95〜120 12.5~13.4
牛・植物タンニン革 75〜90 12.5~13.4
   
 
  ※それぞれ右側の革は処理前、左側の革は熱水で3分間浸漬したもの
   
  2) 耐酵素性、耐薬品性の付与
     革は酸よりもアルカリに弱い。また、生皮はバクテリアにより容易に分解されるが、鞣された革は分解されにくい。すなわち鞣されると腐敗しにくくなる。すなわち、なめされていな皮は土中で早く腐敗するが、例えばなめされた革は腐敗が遅い。
   
  3)革らしさの付与
     しなやかで温かみのある感じになる。漢字の「鞣」は「革」と「柔」とからなっており、皮を柔らかくするということが、“なめし”の定義となることがうなずける。
   

 
クロム鞣しの概要
<準備工程>
   原料皮を水戻しして(水漬け、水戻し工程)、石灰脱毛(脱毛工程)、再石灰漬けした後2枚に分割する。毛があった側を銀付き皮、肉面側を床皮という。塩化アンモニウム等で脱灰・酵素剤を用いて酵解(脱灰・酵解工程)する。
   
<鞣し工程>
  食塩と硫酸・ギ酸等でピックルし(浸酸工程)、塩基性硫酸クロムでクロム鞣しを行なう(鞣し行程)。クロム鞣しに用いる一般的なクロム塩は、塩基性硫酸クロム[Cr(OH)2SO4Cr]+2の状態で溶液は青緑色を呈している。これらの組成はpH、濃度、温度、中性塩の有無、酸および塩などの添加物によっても変化する。クロム化合物が皮タンパクを構成するコラーゲンの反応基(主にカルボキシル基)と架橋結合して皮の繊維構造を安定化する。
 鞣し終わった革はクロム塩によって青色を呈しているため、「青」、「ブルー」、「ウエットブルー」という名称で呼ばれる。クロム革の耐熱性はほぼ110℃付近である。
 鞣しの段階でアルミニウム塩を使用すればアルミニウム鞣し革、ホルムアルデヒドを使用すればホルマリン鞣し革となる。すなわち使用する鞣し剤の種類により、名称が異なってくる。世界の約80%以上がクロム鞣し革である。
   
<中和・再鞣・染色・加脂工程>
   次ぎに水絞り、厚み調整のためシェービングされ、重量測定後、水洗、重炭酸ナトリウム等で中和、様々な再鞣剤で再鞣、染色・柔軟性を付与するための加脂を行なう。また、中和前に再鞣しを行なう場合もある。
   
<仕上げ工程>
   染色・加脂された革は、仕上げの前処理としてガラ干し乾燥、味とり、ステーキング(揉み)、トグル張り乾燥を行う。ガラ干し乾燥の変わりに真空乾燥を行なう場合も多い。仕上げ工程として下塗り、中塗り、上塗り(スプレー)を施し仕上げを行う。最後に面積を計量して出荷する。
   

 
植物タンニンなめしの概要
 植物タンニン鞣しは古来より行なわれており、クロム鞣しが全盛を誇る以前はタンニン鞣しが主流であった。主に靴底革、中敷き革、ベルト用革、工芸用革などの製造に用いられる方法である。ピックル工程までは同じであるが、鞣しの段階で植物タンニン剤を使用する。
 本来はタンニン濃度の異なる@ロッカー槽、Aレイヤー槽、Bホットピット槽というタンニン槽に皮を浸けこんで鞣す。鞣しが終われば漂白、加脂、セッチングアウト(伸ばし)、引油、乾燥、味取り、ロール掛けを行って仕上げる。また、タンニン槽の変わりにドラムを用いて鞣す方法もある。植物タンニン鞣し革の耐熱性は80℃〜90℃程度である。植物タンニンはコラーゲン(主にペプチド鎖や側鎖の水酸基およびアミノ基)と結合するが、結合しないで繊維間隙に沈着しているものもかなりある。ちなみに底革などは革の重量で販売されるが、クロム鞣し革などは面積で販売する。
   
   

 
その他のなめし
 クロム鞣しや植物タンニン鞣しがほとんどであるが、他にも数多くの鞣剤が開発されている。鞣剤を幾つかのグループに分けると下記のようになる。それぞれの鞣剤が革に付加する効果を表3に示す。
   ・無機カチオン系:クロム、アルミ、チタン、ジルコニウム等
 ・無機アニオン系:ケイ酸塩、ポリリン酸塩等
 ・植物タンニン系:加水分解型、縮合型
 ・油脂系:高度不飽和魚油、植物油
 ・アルデヒド系:ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド
 ・芳香族縮合物:フェノール系、ナフタレン系
 ・合成樹脂系:樹脂
 ・合成脂肪族系:長鎖塩化スルホニル
   
   

  鞣し方法の概要
   
  代表的な鞣し剤が革に付与する効果
 

Ts( ℃ ) 耐熱性 染色性 弾力性 可塑性 充填効果 吸水性 色 調

クロム

77-120 × 淡緑味青

タンニン

70-89 × 黄 ~ 赤茶

合成鞣剤

63-88 ×〜△ △〜○ △〜○ 黄味茶

アルデヒド

63-85 △〜○ × ×〜△ 白〜黄

ジルコニウム

75-97

50-65 × × ×
  ◎非常にすぐれている。 ○すぐれている △普通 ×劣る